JAXA能代ロケット実験場見学会

2023年度第1回見学会「JAXA能代ロケット実験場見学会」

 

去る69日、水素関連研究における国内の代表的実験施設であるJAXA能代ロケット実験場の見学会をJAXAのご厚意のもとに開催した。

秋田はそもそもロケットにゆかりが深い地である。古くは1955年に遡り、糸川英雄教授(東大)による日本初のペンシル型ロケット実験が道川海岸で行われ、その後1962年には能代ロケット実験場が開設された。同年には大館市田代に三菱重工のロケットエンジン試験場も開設されている。一般には大型ロケット発射のニュースで目にする種子島(内之浦宇宙空間観測所)が有名だが、実は秋田こそが日本のロケット開発拠点となっているわけである。なお、能代ロケット実験場は、海岸沿いであるとともに、広大な砂防林によって周辺民家から1kmの保安距離が確保できることも立地上の重要なポイントになっている。

さて、能代ロケット実験場は小型ロケットに用いる固体ロケット(固体燃料)の地上燃焼試験を主体として開設されたが、その後、液体水素ロケットの研究開発が開始され、それにともない各種水素関連設備が整備されてきた。当然、実験には液体水素、液体酸素や液体窒素が用いられるので、実験場は高圧ガス製造所に区分される。かつてはこれらの設備はロケット実験のみに供していたので、年間の稼働期間は2ヶ月程度だったそうだが、2009年以後、大学共同利用の場として活用されはじめ、近年では企業の研究開発も実施されるようになり、施設の年間稼働日は300日にも達している。なお、敷地内には各種ガス(液化ガス)のタンクがあるが、残念ながらコストが見合わないということで液化装置は設置されていない。

実験設備に目を向けてみよう。広大な敷地には大型施設として、大気燃焼試験棟、真空燃焼試験棟がある。文字通りロケットエンジンの燃焼試験を行うもので、陸側には巨大な推力を受け止める強固な壁があり、噴射は海に向かう。ただし、噴煙は直接海面に接しないよう傾斜板が配置されている。これらは、高温にさらされるうえ、海に接していることもあって劣化が激しく、常に補修を続けなければならないそうである。水平方向燃焼施設よりは規模は小さいが、垂直方向の燃焼試験設備もある。下方には大きなピットがあり、噴煙はそこを経由して一旦横に抜け、最終的に上空に向かって排出される。当然ながら見学では実際の燃焼試験は見ることはできなかったが、動画で紹介いただいた試験風景は確かにすさまじいものであった。

実験場にはロケット利用以外の水素関連設備も多数設置されている。その主目的は、水素の安全性(危険性)評価であり、法改正の根拠データにもつながる。なかでも、90MPaの超高圧液体水素を発生させる圧縮機(Linde製)や3万リットルの液体水素タンク(岩谷製)が代表的なものとなる。これらの設備を用いて、配管や弁等の評価が行われている。安全性評価という観点では、ピンホールから水素が漏洩したときの着火距離実験施設もある。施設といっても庭に添え木が並んでいるような風景だが、現実に社会生活に水素が用いられるようになれば、このような基礎データは欠かせない。

趣向の異なる領域としては、水素を用いた超電導利用技術開発がある。京都大学や関西学院大学との共同研究として、液体水素の流動特性評価から始まり、HTSコイルとの組み合わせによる磁場発生試験が行われている。なお、実験中は設備周辺は無人となり、研究者は土手を挟んだ別棟から遠隔で操作を行う。

以上のように、ロケット実験からスタートした能代ロケット実験場だが、近年の水素社会に向けた動きに対応した様々な基礎実験にも活用されるようになってきた。現在は大規模水素サプライチェーン向け液体水素機器試験設備が増設されているが、水素の展開候補としては、モビリティ応用、電力(発電)、航空機、超電導といった現在進行形のものから将来の夢につながる応用まで需要は旺盛であり、実験対象はますます拡大していくだろう。今後とも水素実験の中心的役割をになう能代ロケット実験場の存在と活動から目が離せない。

最後に、今回の見学会開催を快くお請けいただき、大変貴重なご講演を賜ったJAXA能代ロケット実験場の小林所長、詳しいご説明とともに施設案内をいただいた鈴木様および施設関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。また、当日はあいにくの小雨模様ながら、遠路31名の方々にご参加いただき、大変盛況であったことも併せてご報告いたします。

(記:伊藤聡

 


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大型熱交換器
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低温機器展示会風景
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液体ヘリウムクライオスタット
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